契約書の条文設計と文字数 - 法的文書の読みやすさを決める要素

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利用規約の平均文字数は約 1 万文字。読むのに 30 分以上かかりますが、実際に読む人は 1% 未満とされています。契約書や利用規約の文字数は、法的な正確性と読みやすさのトレードオフです。短すぎれば法的リスクが生じ、長すぎれば誰にも読まれません。法的文書の文字数設計を解説します。

法的文書の種類と文字数

文書の種類平均文字数平均ページ数読了時間の目安
NDA (秘密保持契約)3,000〜5,000 文字2〜3 ページ10〜15 分
業務委託契約書5,000〜10,000 文字4〜8 ページ15〜30 分
Web サービス利用規約8,000〜15,000 文字5〜10 ページ25〜45 分
賃貸借契約書10,000〜20,000 文字8〜15 ページ30〜60 分
M&A 契約書50,000〜200,000 文字50〜200 ページ数時間〜数日
Apple の利用規約約 30,000 文字 (英語)約 20 ページ約 90 分

NDA は比較的短く、3,000〜5,000 文字で収まります。定型的な条項が多く、カスタマイズの余地が少ないためです。一方、M&A 契約書は 20 万文字を超えることもあり、これは長編小説 1 冊分に相当します。取引の複雑さが文字数に直結するのです。

有名サービスの利用規約の文字数

日常的に利用するサービスの利用規約を、文字数の観点で比較します。

サービス利用規約の文字数 (英語版)読了時間更新頻度
Instagram約 12,000 文字約 35 分年 1〜2 回
X (旧 Twitter)約 10,000 文字約 30 分年 1〜2 回
Amazon約 15,000 文字約 45 分年 2〜3 回
Google約 8,000 文字約 25 分年 1〜2 回
Microsoft約 20,000 文字約 60 分年 1〜2 回

Google の利用規約は約 8,000 文字と比較的短く、平易な言葉で書かれています。これは Google が「読まれる利用規約」を意識的に目指した結果です。一方、Microsoft の利用規約は約 20,000 文字で、製品ラインが多岐にわたるため条項が増えています。

1 文の長さと法的リスク

契約書の 1 文の長さは、解釈の曖昧さに直結します。

1 文の文字数可読性法的リスク推奨される場面
30 文字以下非常に高い低い (明確)定義条項、短い義務規定
30〜60 文字高い低い一般的な条項
60〜100 文字中程度中程度条件付きの義務規定
100〜200 文字低い高い (解釈の余地)複雑な例外規定
200 文字以上非常に低い非常に高い避けるべき

法的文書で 1 文が 200 文字を超えると、主語と述語の対応が曖昧になり、複数の解釈が可能になります。契約紛争の多くは、長すぎる条文の解釈の相違から生じます。「1 文 1 義務」の原則を守り、1 文を 60 文字以内に収めることが、法的リスクを低減する最も効果的な方法です。

プレインランゲージ運動 - 法的文書を短く、わかりやすく

欧米では「プレインランゲージ (Plain Language)」運動が法的文書の世界を変えつつあります。

アメリカでは 2010 年に「Plain Writing Act」が成立し、連邦政府機関に対して「一般市民が理解できる言葉で文書を書くこと」を義務付けました。イギリス、オーストラリア、カナダでも同様の法律や指針が整備されています。

項目従来の法的文書プレインランゲージ
1 文の平均文字数80〜150 文字30〜50 文字
専門用語の使用多用必要最小限 + 定義を併記
受動態の使用多い能動態を優先
二重否定頻出禁止
見出し・箇条書き少ない積極的に使用

プレインランゲージの原則は、エラーメッセージの設計と共通しています。専門用語を避け、短い文で、能動態で書く。法的文書もエラーメッセージも、「読者が正しく理解して行動できること」が最終目標です。

利用規約を読まない問題

利用規約の最大の問題は、ほとんど誰にも読まれないことです。

カーネギーメロン大学の研究によると、アメリカ人が利用するすべてのサービスの利用規約を読むと、年間 76 日分の時間が必要です。現実的に不可能な量であり、「同意する」ボタンは事実上「読んでいないが同意する」ボタンになっています。

この問題に対する解決策として、「階層化された利用規約」が注目されています。1 ページの要約 (500 文字程度) で主要な条項を説明し、詳細は全文へのリンクで参照できるようにする。Creative Commons のライセンス表示が「人間が読める要約」と「法的条文」の 2 層構造を採用しているのは、この考え方の先駆けです。

法的文書の文字数で解説した通り、法的文書の文字数問題は「正確性」と「可読性」の永遠のトレードオフです。しかし、読まれない契約書は、どれだけ正確でも機能しません。文字数を減らし、構造を整理し、読まれる法的文書を目指すことが、結果的に法的リスクの低減にもつながるのです。

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